失ってから知る過去の幸福な時間と愛-『葬送のフリーレン』あらすじと感想(ネタバレあり)

『葬送のフリーレン』を最新話(115巻)まで読みました。

『葬送のフリーレン』は『週刊少年サンデー』で連載中の漫画です。山田鐘人さん原作、アベツカサさん作画で、2023年9月からアニメも放送されています。

目次

あらすじ

標語は「英雄たちの “心の内” を物語る後日譚ファンタジー」(少年サンデー公式サイトより)です。

以下、あらすじと感想ですが、最新話までのネタバレがありますので未読の方はご注意ください。

冒険のおわり

舞台はファンタジーの世界で、勇者ヒンメル、僧侶ハイター、戦士アイゼン、そして魔法使いフリーレンのパーティが魔王を倒し、平和な町に英雄として帰ってきた、そこから始まります。

フリーレンはエルフで、軽く1000年は生きる種族です(フリーレンはすでに1000年は生きており、また他のエルフと比べても若いことから、まだ寿命は何千年も先かと思われます)。また、アイゼンもドワーフで300年ほど生きますが、ヒンメルやハイターは人間です。

仲間たちが10年という長い冒険を思い返してしんみりしているのを、フリーレンは「たった10年」と軽くあしらいます。

4人が帰ってきた日はちょうど半世紀流星(エーラ流星)が見える日でした。半世紀流星は、50年に一度見ることができる美しい流星群です。25歳くらいのヒンメルとハイターは初めて見るものでしたが、フリーレンは「街中だと見にくいね」と言って「次の50年後はもっとよく見えるところに案内するよ」と言います。呆れたように、少し寂しげに微笑むヒンメルが印象的ですね。そして、50年後にまたみんなでエーラ流星を見る約束をします。

仲間の死

その後、すぐにフリーレンは「100年くらい魔法収集の旅を続けるよ、たまに顔を見せるから」と言って町を出ます。そして50年間町には帰らず1人で冒険を続けます。この50年の描写はたった3ページです。そのくらいフリーレンにとって50年は短い時間なのでしょう。

半世紀流星を仲間たちと見るため町に戻ったフリーレンは、すっかり歳をとったヒンメルやハイター、アイゼンと合流します。そして1週間冒険しながら流星群がよく見える場所を目指します。4人で流星群を見ながら、ヒンメルは「最後にたのしい冒険ができてよかった、僕は全員が揃うこの日を待ち望んでいた」と言います。美しい流星群の次のページではヒンメルの葬儀が行われています。

いつも通り澄ました顔のフリーレンに町の人が「冷たい人だ」と囁きます。フリーレンはその言葉に、ヒンメルとの冒険を思い出します。そして、

…だって私、この人の事何も知らないし… たった10年 一緒に旅しただけだし…

…人間の寿命は短いってわかっていたのに… なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…

原作:山田鐘人/ 作画:アベツカサ『葬送のフリーレン』1巻

と涙します。このことをきっかけにフリーレンは魔法収集の旅と、人間を知る旅に出ます。ここまでが1話です。

新たな冒険

その後、フリーレンはハイターとアイゼンの言葉により、死者と対話できるという伝説の場所、オレオールに向かうことになります。そして、ハイターが遺したフェルンという弟子やアイゼンの弟子であるシュタルク、3人で冒険をします。オレオールは魔王城がある場所なので、以前ヒンメル達と冒険した道を彼らとの記憶を追いながら巡ることになります。

フリーレンは感情の起伏が少なく、他人に寄り添うことも苦手で、仲間の前で「人間はすぐ死ぬから弟子をとっても意味がない」と言ってのけたり、人間の寿命を知っていながら50年間まったく仲間に会いに行かなかったりと、かなり淡白な人物だったのですが、ヒンメルや仲間の死や、新しい仲間との冒険、それによって思い出したヒンメルたちとの会話や愛情によって、少しずつ変わっていきます。

簡単に『葬送のフリーレン』のあらすじをまとめると、仲間たちを追憶しながら冒険するエルフの物語です。

ヒンメルという第2の主人公

真の主人公との呼び声高いヒンメル。この話はフリーレンの視点から物語が進みますが、登場人物たちに一番影響を与えているのは間違いなくヒンメルです。魔王を倒した伝説のパーティの勇者であり、町に置かれた像の数々や、人々の語るエピソードからその人格が描かれます。また、フリーレンやハイター、アイゼンは口を揃えて言います。「ヒンメルならこうする」。

物語の時間を表す際も「ヒンメルの死から○年後」というように描写されます。物語の中枢を担う存在です。

ヒンメルは公式サイトによると、「魔王を倒した勇者パーティーの勇者で、自称イケメンのナルシスト。仲間思いで、困っている人を助けずにはいられない。」(アニメ『葬送のフリーレン』公式サイト)人物です。

ヒンメルは普段ナルシストキャラでおちゃらけていることが多いです。しかし、実際は思慮深く、優しく、頼り甲斐があり、おちゃらけている時でも真意は別にある雰囲気、必要なことは言葉にするが、寂しげに黙って微笑んでいる時もある、魅力的な人物です。

たとえば、ヒンメルは自分の像を作られることを断りません。時間もかかるし、断ればいいのに、とフリーレンは考えています。それに対しヒンメルは「僕のイケメンぶりを後世に残さないとね」と嘯くのですが、呆れて部屋を出て行こうとするフリーレンに「でも1番の理由は別にある」と言います。その理由は、自分たちが死んだあともフリーレンがひとりぼっちにならないようにというものでした。

また、ハイターが戦争孤児であるフェルン(後のパーティのメンバー)を助けたのも、「ヒンメルならそうする」という理由でした。亡くなった両親の写真を片手に崖から飛び降りようとする幼いフェルンに対しての台詞も、「死ぬのはもったいないと思いますよ」でした。自分が今死んだら、ヒンメルから学んだ勇気や意志や友情や思い出が、この世からなくなってしまう。同じように、あなたにも大切な思い出があるのなら、今死ぬのはもったいない、ということでした。

そんな勇者ヒンメルですが、本物の勇者だけが抜けるという勇者の剣は抜くことはできませんでした。その時の表情も切ないです。魔王を倒せる実力があり、みんなに慕われる勇者であったものの、そういう大きな力に選ばれることはなかった。そんな完全無欠じゃないところにも惹かれる人物です。

オレオール(天国)でヒンメルと再会できるか?

フリーレンの新しい旅の目的(の一つ)は、オレオールでヒンメルと会話をするということですが、それは叶うのでしょうか?

主要人物たちの生死感が「死んで無になろうが天国にいこうがどっちでもいい、でも天国があると思っていたほうが救いがあるよね」という価値観なので、個人的にはオレオールにいってもヒンメルとは話せないと予想します。

また、作中(8巻)には「苦労して手に入れたものがゴミだったとしても笑い飛ばすだけ」という価値観の描写もありました。

それから、作中で不老不死や死者を生き返らせる魔法は存在しないといわれているところから、物語中での死の扱いは慎重にされていると考えました。オレオールで死者と話せるとしたら、死は特別なものではなくなってしまいます。

作品としても、フリーレンが過去に仲間と辿った道を新しい仲間と歩みながら人間のことを知っていくというストーリーのため、オレオールでヒンメルと会話できなくても、物語としてはなんの問題もないと考えます。

しかし、「天国があった方が救いがあるよね」の会話以降、主要人物たちが祈りを捧げるシーンがよく見られること(天国の存在を期待している?)、最新回あたりでフリーレンがタイムリープして過去の仲間と合流していることから、死者との会話もあり得る雰囲気になってきたような気もします。

美しい哲学

葬送のフリーレンには美しい人生観・哲学がたくさん描かれます。

今回はこの中から2つ名言をご紹介したいと思います。

理想の大人を目指してそれを積み重ねてきただけ

これは僧侶ハイターの台詞です。「ハイターって大人っぽくなったよね」というフリーレンに対し、ハイターは、

本当は私の心は子供の頃からほとんど変わっていません。理想の大人を目指して大人の振りをしてそれを積み重ねてきただけです。きっと私は死ぬまで大人の振りを続けるでしょう。

『葬送のフリーレン』4巻

と言います。

これはきっと多くの人に共通する考え方ではないでしょうか。いつも明るくおおらかに見える人でも、理想を演じているだけで実際はとても脆く繊細な性質を持っているかもしれません。また、自分に自信がない人でも、理想を積み重ねていけばいつかそれを手に入れられるかもしれません。

この後のフリーレンとの会話も良いです。「死ぬまで大人の振りを続けたハイターは誰が褒めてくれるの?」というフリーレンに「そのために女神様がいるんですよ。天国に行くまではお預けですが」と答えるハイター。そこでのフリーレンの「じゃあこの世では私が褒めるよ」という台詞がとても好きです。しかもこれはフリーレンがアイゼンにもらった台詞なんですよね。

ただ幸せだっただけなんだ  だから思い出していいんだよ 

君はきっと師匠と過ごした時間が幸せだったんだよ。ただ幸せだっただけなんだ。だから思い出していいんだよ。

『葬送のフリーレン』9巻

死んだ師匠を思い出すことを理由に、花畑を出す魔法をあまり使ってこなかったというフリーレンにヒンメルが言った言葉です。

花畑を出す魔法を使うとフリーレンは師匠がこの魔法を好きだったことを、そして師匠は今はいないことを思い出して辛かったのでしょう。しかし、それは師匠と過ごす時間が幸せだったからに他なりません。幸せだった思い出にも蓋をして長い命を生きるのは苦しいことです。だからヒンメルは「こんな簡単なこともわからなくなるくらい辛い道のりだったんだね」とフリーレンの心に寄り添いました。

ヒンメルにとっては、自分たちのとの冒険も自分たちが死んだ後もフリーレンの中に幸せな記憶として残って欲しいという願いだったかもしれません。


以上、『葬送のフリーレン』の感想でした。

(画像引用:『葬送のフリーレン』1巻 表紙)

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