映画『GIRL/ガール』を観ました。
『GIRL/ガール』はベルギーのルーカス・ドン監督による長編デビュー作で、2018年のカンヌ国際映画祭に出品、カメラドールを受賞。また、主演で今作がデビューとなったビクトール・ポルスターは最優秀俳優賞を受賞しています。
先日、同監督のクロースを観に行ったのをきっかけに、こちらも再鑑賞しました。少しメモしておきます。
始終描かれるのはトランスジェンダーであるララのとてつもない孤独です。
ララを理解しようと努力しサポートする父親や、彼女を慕う弟、親身になってくれる医者、クラスメイトと楽しそうにじゃれあうシーンもありますが、彼女は心を閉ざしています。
彼女は自分の気持ちを話しません。それは今までの経験がそうさせるのでしょうか。ただ黙って微笑んでいます。常にひとりで苦悩しているようですが、彼女は観客にも苦悩の表情をほとんど見せません。台詞や説明が少なく、観客も彼女の表情から彼女の心を窺うことしかできません。
ララは女性の身体になるまで、自分の人生が始まらないと思っています。それを感じている大人たちが「あなたはすでに女の子だよ」「今を楽しまなくちゃ」「思春期は短いよ」などと元気づけようとするが、それは十分わかっていることなのでしょう、彼女の心を動かすことはありませんでした。
今の自分を受け入れることができずに、どうして人生を前に進められるのか。納得できない自分をどうして人前に出せるのか。頭のほとんどをその苦しみに使っているのに、趣味に没頭したり、恋人や友人を作ることがどうしてできるのか。納得できる自分になれるまで、人生を始めることなんてできないのです。
とうとう追い詰められた日、家族の前でいつも通り振る舞うが、家族がいなくなった瞬間に崩れる笑顔に胸が締め付けられます。バレエの練習中に調子を崩し、控え室に駆け込んでから倒れるシーンも彼女の性質を表しているようで印象深いです。
そして彼女は救急車を呼んだ後、布を咥えてハサミでペニスを切り落とします。いつ来るかわからない救急車や耐えられるかわからない自身の身体への不安より、自分の人生へのもどかしさが上回りました。彼女は1人自室で悲鳴を上げる。たいへんな孤独の描写です。
ペニスを切り落とすシーンは、リリーのすべての結末を思い出して息が止まります。しかしラスト、髪を切ったララが足取り軽く胸を張って歩くシーンで彼女の人生が始まったことを確認できるでしょう。
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