夢オチループ物? -タイザン5『一ノ瀬家の大罪』ネタバレ・感想

引用:少年ジャンプ 公式サイト 『一ノ瀬家の大罪』コミック一覧 https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/ichinoseke.html#ichinoseke001 2023/09/27

『一ノ瀬家の大罪』1~3巻読みました。

『一ノ瀬家の大罪』は少年ジャンプ+で2021年から2022年にかけて連載され話題になった『タコピーの原罪』の作者であるタイザン5(ファイブ)さんの作品です。2022年から週刊少年ジャンプで連載されています。最近広告でよく目にするので読んでみました。

あらすじと感想をざっくりメモします。

タイザン5さんの描く人間は線がシンプルでわかりやすく、表情が豊かです。デフォルメされた可愛らしいイラストですが、表情が左右非対称になっていることが多く、登場人物の複雑な精神状態が伝わります。年齢や性別の描き分けもされていて、登場人物が多くてもごっちゃになることがなく、かなり読みやすいです。

そして、『タコピーの原罪』と同じく、可愛らしいイラストに対し内容はダークです。

物語は、主人公の一ノ瀬翼が病室で目覚めるところから始まります。両親や妹、祖父母が目を覚ました翼を覗き込みますが、翼は「どちらさまですか」と尋ねます。どうやら記憶喪失のようです。しかし家族の様子もおかしく、実は福井での家族旅行中の交通事故で家族全員が同時に記憶喪失になってしまったことがわかります。

それでも家族は病院で会話を重ね、まるで記憶が戻ったかのように心を通わせます。

みんながいれば…!

だって俺たちは

最高の 最強の

一ノ瀬家なんだから!!

タイザン5『一ノ瀬家の大罪1』集英社

しかし退院後、帰宅してからはだいぶ不穏になっていきます。

家に入るとリビングは荒れ放題、ゴミ屋敷状態だったのです。

しかも全員鍵付き個室を持っています。

それぞれ鍵で自分の部屋に入ってみますが、一目見てみんな衝撃を受けたり絶望的な表情をしたりします。そして全員自分の部屋で何を見たのかを隠そうとします(翼の部屋は荒れ放題で、壁一面に「死」の文字が書かれていました)。

こんな導入です。

この後、胸糞いじめ描写、なにか知っていそうな父親による一家無理心中、からの巻き戻り(1周目終了)、2週目開始、2周目の父親が外見も性格も別人、真相を知っていそうな雰囲気の2周目父親、1周目の記憶が蘇っておまえは本物の父親じゃないと指摘する翼、それがきっかけで先夫(翼にとってに1周目の父親)の記憶が蘇る母親、実は浮気?していた本当の父親、ラスボス感漂う2周目の父親、ループ前の記憶を失ってファストフード店でバイトをしている本当の父親、日記で記憶が蘇って消される母親…。この辺りから多数のループが繰り返され、2000回ループしていることに気づいているという祖父、ループの謎を解きに行く一家、実は認知症だった祖父、まだ夢を見ていたい祖母に海に突き落とされる翼、と怒涛の展開です。

毎話衝撃のできごとがあり(衝撃の展開を作るのがメインになっているというきびしい意見も多かった)、さらにループ物ということで、一進一退の乱高下という感じです。

その後翼は2周目以降の父親から、実はこれは全て福井の事故で昏睡状態となった翼が見ている夢だと聞かされます。そうなると今までの話はすべて夢だったということになり、読者からの不満の声もあったわけです。しかし、この物語の要である一ノ瀬家の「大罪」とはなにか? なぜ家族は福井に行って事故にあったのか? のヒントは、この最中に見え隠れしていそうではあるので、無意味な夢オチという評価にはならないと思いました。

「大罪」に関しては、一ノ瀬家は7人家族なのでそれぞれの問題を「7つの大罪(キリスト教において罪深いとされる人間の業)」とかけている可能性もあります。

そして、3巻のラストで翼は昏睡状態から目覚めます。4年歳をとった自分に衝撃を受けながらも、日常に馴染もうとします。また、夢の中の自分は記憶喪失の家族を明るく元気づけたり、妹を助けたり、両親の仲を取り持ったり、家族をリードしてループの謎を解こうとしたり大活躍でしたが、現実はそうではないこと、また自分にヒーロー願望があったことを恥ずかしく思っています。

また、昏睡状態だった翼の夢から消された父親と母親視点の回もあり、どうやら翼が夢を見ているとき、家族も同じ夢を見ていたらしいことがわかります。この夢は仕組まれたものなのか? 夢に出てきた2周目以降の父親は誰なのか? 一家は福井でなにをしていたのか? 大罪とはなにか? どのように解き明かされるのか楽しみです。

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