無機質さと生々しさに吸い込まれる-野又穫の描く構築物

野又穫《視線の変遷 31》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)

野又穫(のまたみのる 1955-)さんの個展を東京オペラシティアートギャラリーで見てきました。

上の作品、《視線の変遷 31》は伊坂幸太郎さんの文庫版『モダンタイムス』の表紙に使われた作品です。

野又さんの作品はこのように、大地の上に無機質な構造物が大きく建っているものが多いです。 

野又穫《Skyglow-H5》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)

野又さんは東京芸術大学美術学部デザイン科を卒業後、広告会社でアートディレクターを務めながら制作を続け、いくつかの個展を開催したのち作家活動に専念。2021年から英国の有力ギャラリーであるホワイト・キューブに所属し、世界的な作家となりました。
(※参考:朝日新聞 野又穫「空想の建築」ガウディ「奇想の建築」壮大なる思考と夢想 2023/08/22, 美術手帖 野又穫の描く未来はなぜこんなにも懐かしいのか。個展「野又 穫 Continuum 想像の語彙」でその世界に浸る https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/27475 2023/09/25)

野又穫《Continuum-2》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)

真ん中に構造物がどんと建ち、背景には空が描かれ、また構造物の足元には植物など自然物が描かれている作品が、ずらりと並んでいるのをみると妙な気分になります。

構造物はだいたいが白などの単色で、基本的に人間は描かれません。

それが無人地帯に構造物が突如現れたような、謎めいた雰囲気を醸し出しています。

野又穫《都市の肖像》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)

《都市の肖像》はサイズも大きく、立ち止まって見てる人が多かった作品。

野又さんの描く構造物は緻密に描かれたものが多く、シンプルな色遣いも相まって(特に離れてみると)建築設計における立面図のように見えます。

その無機質な単色の構造物に光が降って影が落ちている。

野又穫《望楼へ 15》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)

光と影が描かれる作品は、見ている者に自分も光や影の中にいるような錯覚を与えます。

野又穫《視線の変遷 12》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)

上の作品は、雲に遮られながらも太陽光が降りそそぎ、下の方は深い影になっています。

地面に近いところでは人がいることを示す明かりが灯り、それが親しみを感じさせるような、逆に近寄りがたいような、不思議な作品です。

以下、光を主役にした作品群もよかったです。このコーナーは照明が薄暗く設定してあって、作品が発光しているように感じられました。

野又穫《Skyglow-H8》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)
野又穫《Skyglow-H9》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)
野又穫《波の花》(オペラシティアートギャラリー 野又穫Continuum 想像の語彙 展示作品を撮影)

わたしが野又さんの作品で特に好きなのは、構築物の表面の質感です。

遠目から見ると設計図のような作品に近づく。するとすぐに吸い込まれ、自分がそれに触った時の感触を手のひらに感じるのです。興奮します。

無機質にみえて生々しいこれ、頭の中で撫でてみてほしい…。

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