周りを成長させながら自身も成長する、真っ直ぐな主人公-『スキップとローファー』1巻あらすじと感想(ネタバレあり)

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スキロー1巻を読み返しました。

スキローこと『スキップとローファー』は講談社の『月刊アフタヌーン』で2018年から連載されている漫画で、2023年にアニメ化もされました。作者は高松美咲さん(ちなみに高松美咲さんは別名義でBL漫画も描いています)。

東京の進学校を舞台にした青春物語スキローですが、素敵な青春を送った人だけでなく、孤独な人間の心まで温める作品です。多くのキャラクターが登場する中で、それぞれの人生の重みを感じることができ、どのキャラクターも自らの人生をしっかりと生きているのを実感します。

ここではスキロー1巻の感想とネタバレを紹介します。

目次

主人公のまぶしさ

物語は、石川県出身の主人公、岩倉美津未(15歳)が、東京の進学校に入学するところから始まります。

まず、この美津未がとってもひたむきで努力家でまっすぐでまぶしい女の子です。

アニメのオープニングに須田景凪さんの「メロウ」が使われていますが、この曲は美津未が初めて東京で出会う同級生、志摩聡介視点の美津未に対する歌詞であると評判です(Twitterや YouTubeをみました)。「眩しくて 眩しくて 僕は目を逸らしてしまう」という出だしは確かに美津未を連想します。

美津未は地元では神童と呼ばれるくらい頭の良い女の子で、将来はT大に行き官僚になるというのが夢なのですが、彼女は生まれつきの天才であるというよりも、様々な物事に対する前向きな好奇心や勤勉さの結果のようです。

それは新入生挨拶を暗記するほど練習したり(宣誓書を登壇の際忘れてしまったので暗誦することになってしまう)、自己紹介の準備を寝不足になるまで念入りに行ったり(しかし失敗してしまう)することからもわかります。

また、石川県の端っこの過疎地で、自然に囲まれ人との距離が近いゆったりした環境で育ったためか、とても純朴かつポンコツで、東京の進学校では初日から浮いてしまう

美津未は新入生代表挨拶を終えた後、全員の前で担任の服にゲロし、みんなからの認識が「吐いた人」になってしまいます。しかし本人はそれを知っていながら気に病みすぎたり赤面したりということはないのです。「カッコよくスピーチしてみんなから尊敬の眼差しを浴びてたくさん声をかけられる」という計画がパーになった事実に呆然としているだけです。普通の女子高生ならその日は恥ずかしくて保健室から出てこられなかったり、翌日の登校も危ぶまれるくらいの大恥なのですが、美津未は、

今日の失敗はノーカウントにしよう

初日だもの

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p54

などと考えます。

それは故郷でのびのび愛情を受けて育ち、そんなことでは自分の居場所はなくなるまいという自信があるからでしょうか。

自分の「得にならない子」

後ろの席の女子たちが連絡先を交換しているのを見た美津未は勇気を出して「あのっ よ よろしくね…」と声をかけるが、後ろの席の子(ミカ)はチラッと美津未に目をやり、

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p35

とだけ言ってスマホに目を落としてしまいます。

無視するわけじゃないし、あからさまに冷たくするわけでもなく、ただ「この人は自分の得にならない」と感じ、仲良くする労力を渋っているように見えます。※このあと人気者の志摩と仲よさげなのを見て連絡先を交換します。

ちなみに、ミカについても巻数を追うごとに彼女の立場や心理描写も細かく描かれて、この時は美津未視点で見ている人にとっては「嫌な奴」ですが、物語が進むとミカに共感する読者も多いようです。

志摩との出会い

入学式後の孤立する美津未に志摩が「友だちになろうよ」と声をかけますが、美津未と志摩が話すのはこのシーンが初めてではありません。

石川県からやってきて一人で東京の列車に乗る美津未は、道に迷って入学式に遅刻してしまいます。そこを同じく入学式に遅刻しそのままサボろうとしている志摩に声をかけられます。志摩の助けを借りて美津未は無事に新入生代表挨拶に間に合ったのでした。

美津未は「こんなスマートな男の子が東京にはたくさんいるのかな」と考えますが、志摩は外見と人当たりが特別よい、男女両方から注目を集める男子生徒でした。

みんなが「地味で芋っぽい自分の得にならない子」と美津未を見ている中、志摩がまっすぐ美津未に向かっていき話しかけたことで、美津未はクラスに馴染むきっかけを得ます

ちなみに志摩は入学式をサボろうとしていたことや、将来の夢がないと自己紹介で発言していることからもわかるように、なんとなく虚無主義的な空気を感じます。いつもニコニコしてクラスの中心にいるが、登場人物の中で一番闇が深いという読者の意見も目にします。闇が深いというか、最終巻までの伸びしろは彼が一番あるのではないかと思います。1巻では、人生であまり関わったことのないような美津未という人間に心を動かされ、新しい高校生活に少し期待を抱いているような姿が描かれています。

教室での自己紹介では、不器用な美津未と抜け目ない志摩の対比が描かれています。美津未は自己紹介の際「どうして官僚になりたいの?」と同級生に訊かれ、

人の上に立つ人間だからです!

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p64

と慣れないジョークを飛ばしますが、誰にも通じず、教室の空気を凍らせてしまいます。しかしその後の志摩が、

将来の夢は今のところなくて

あ 岩倉さんの部下ならなりたいです!

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p65

とフォローし、クラスメイトたちを笑わせていました。

魅力的なポンコツ

スキローは「地味で可愛くもない私がこんなイケメンに気に入られてしまう」シンデレラストーリー的な話ではありません。そもそも美津未は一見地味ですが、そこら辺の人が感情移入できないくらい純朴で、眩しいのです。繊細な心理描写で共感することはできても、感情移入できる人はなかなかいないのではないでしょうか。

また美津未は天然でポンコツではありますが、その場の状況や周囲の人々のことを深く考え、寄り添うことができる才能があります。

たとえば、父親の弟で東京での保護者であるナオちゃんと電車に乗っている時、トランスジェンダーのナオちゃんを見た女子高生たちが「うそ 男?」などとヒソヒソ話す場面。美津未は黙ってナオちゃんの手を握り、笑顔の練習に付き合わせます。この場面では誰の心の声も描かれないため、ナオちゃんがどう思ったのか、そもそも美津未に女子高生たちのヒソヒソが聞こえていたのかもわからないのですが、他人にネガティブな感情を持たず変な自意識も持たず他人を思いやれる美津未の内面が描かれているように思えます。

美津未の周囲の人々はみんな彼女に影響されたり好意を持つことが多いですが、読者のほとんども美津未に魅力や愛情を感じるのではないでしょうか。また美津未もただ周りに影響を与えるだけでなく、周りから影響を受けて、さらに成長していくというのもこの漫画のすばらしいところです。

人の心ってわからない

その後、志摩に好意を寄せるミカが、美津未や志摩など10人ほどをカラオケに誘います。

そこで結月(クラスで美人なギャルとして目立つ女の子)に「あの子(ミカ)にダシにされたりバカにされてるの気づかないの?」と声をかけられます。そこで初めて人の悪意に気付く美津未。そこでも特にミカに対してマイナスの感情を出さず、寂しげな表情で「人の心ってわからない」と考えます

そして部屋に戻った時に「岩倉さんの入れた曲もうすぐだよ」と声をかけてくれた木之本が

気になってたんだけどさー そのピンってオシャレ?

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p93

と訊いてくるのです。ピンというのは地元の幼馴染であるフミがくれたパンダの顔の付いたヘアピンなのですが、美津未はそれを制服の胸ポケットに挿していました(正直あまりイケてるとはいえない)。ミカの悪意に気付いた直後なので、読者も美津未も「それってどういう意味…?」と思う。アニメでもこのシーンは周囲の音が止みます。

しかし美津未は、

いや わかるわけないか 出会って2日だもん

こんなこと 考えたって 仕方なかったんだ

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p93,p94

と考えを改めます。そして、「うん オシャレ!」と答え、「トコ次郎のマーチ」を歌います。カラオケに初めて行く美津未は、事前にネットで調べたかテレビ等の知識で「みんながよく知る楽しい曲を選ぶこと」「恥ずかしがらずノリ良く歌うこと」というカラオケの鉄則を真面目に実践した結果です。「トコ次郎のマーチ」はおそらく美津未の同世代が子どもの頃流行ったアニメで、『とっとこハム太郎』を連想させます。一瞬呆気にとられるクラスメイトたちだが、結月が思わず笑ったことで、場が盛り上がり、美津未は一気に溶け込みました

ちなみにヘアピンの木之元さんと翌日会うシーン。

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p109

純粋な興味からの質問でした。よかった。

予感

1巻の最後ではクラスメイトの7人と映画を観に行くことになります。ちなみにこの7人は今後行動を共にするようになります

この場面で中心となるのは、結月と誠の友情の芽生えです。結月はカラオケにも来ていたキツめの雰囲気の美人で、誠はいつも教室の隅で読書をしている大人しい女子。誠はかなりの人見知りで、美津未に対しても心を開くのに時間がかかったが、志摩のサポートで2人は連絡先を交換し、仲よくなりかけている雰囲気。誠は美津未だけを映画に誘ったのだが、ポンコツの美津未はそれに気付かず、結局7人で映画に行くことになってしまったのでした。

結月は誠が気になるのか果敢に声をかけるが、誠はどうしても結月を「苦手なギャル」として見てしまい、美津未への態度と差を作ってしまいます。それに気づいた結月は、

なんかごめんね

ほんとはみつみだけ誘いたかったんじゃない?

あたしみたいなタイプ苦手だったら 今日無理に話しかけなくていいから

気ぃ遣わなくていいよ せっかくの休日だし

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p178

と声をかけます。図星の誠は何も返せず、

だって仕方ないじゃん

私のことダサいとか思ってんだろうなって考えたら 萎縮しちゃうんだもん

急に仲良くなんて無理

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p179

と考えます。

美津未も2人の気まずそうな雰囲気を察し、映画館では間に座るが、何もできません。落ち込みながらも自分のキャラメル味のポップコーンと志摩からもらった塩味のポップコーンを交互に食べ、甘さとしょっぱさが交互に来るこの食べ方を気に入ります。そして、

私は今日からキャラメル&塩派だな〜

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p182

と言います。

誠はそれを聞いて、美津未と食べたスタマのドリンクのことを思い出します。あのような浮かれた飲み物には苦手意識があったが、それを美味しいと思える自分もいたのでした。誠は自分が偏った見方をしていたことに気付き、その場で結月に謝罪と「あなたのことをこれから知れたらいいと思っている」というメッセージを送り、2人は和解します。

この2人の友情も巻数を追うごとに深まっていくが、これも見どころの一つです。

映画の帰りに美津未は、

土地の記憶は人の記憶だと思います

なので

私はきっとこの場所を好きになります

高松美咲『スキップとローファー』1巻 p188~190

と、6人に視線を向けながら思います。

巻が進むとさらにさまざまな背景の登場人物とその成長が描かれます。未読の方はぜひ手に取ってほしいです。

2巻の感想はこちら。

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