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1巻に引き続き、2巻の感想も書いていきます。
1巻の感想はこちら。
ピリピリする小指
2巻は、1巻で美津未に演劇部の勧誘をした兼近先輩との会話から物語がはじまります。
兼近先輩は有名な劇作家になることを夢みて、演劇部で脚本と役者を同時にこなしています。とにかく演劇のためならどんな努力も惜しまないという性格で、目立つことや人にどう思われるかということを気にせず明るく元気に突っ走る感じに対し、書く脚本は難しめの会話劇ばかりというギャップも魅力的な人です。
兼近先輩は昔観ていたドラマに志摩が子役で出演していたことに気が付きます。兼近先輩は子役であった志摩が喜怒哀楽はもちろん文脈を理解して演技していることに感動し、演劇部に誘うため志摩に声をかけるが、志摩は子役をやっていたことをみんなに知られたくないようで、取りつく島もありません。
そこで美津未に志摩を演劇部に誘うようお願いしにきたのです。美津未は勢いに圧倒され、とりあえず聞き入れるが、
テレビに出てたんだよね?
私なら自己紹介の時点で自慢している…
言ってないってことは
みんなに知られたくないことなのかも
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p11
と察し、2人きりになったタイミングで苦悶しつつことの経緯を説明します。
志摩は「母さんを喜ばせるためにやっていただけで もうやりたくないんだ」と言い、美津未になぜ官僚になりたいのかと訊きます。美津未は自分の故郷の過疎が深刻であることと、同じような問題を抱えた全国の土地の対策に携わりたいのだという話をしますが、真面目な話をしてしまったことが照れくさくなり、冗談を言って笑い飛ばそうとしました。すると志摩は、
茶化さなくてもいいよ
立派な目標じゃん
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p20
と笑いませんでした。美津未はそんな志摩に頬を赤らめ、
これからもし志摩くんにやりたいことができたら
どうなっても志摩くんの行きたいとこ行っておいしいもの食べよう!
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p28
と元気づけ、指切りをしました。別れた後、美津未は自分の小指がピリピリしていることに気がつきます。
すごく練習してじょうずになったんだなって わかるよ
スキローの中でもこのクラスマッチの練習回はかなり評価が高いです。今まで美津未や誠のダサさを心の中で馬鹿にしたり、美人で男子の注目を集める結月を目の敵にしていたり、志摩をイケてる異性の男の子(恋人にしたら自分の価値が上がるように錯覚するような)としか見ていないような描写が目立ったミカですが、クラスマッチの練習回では彼女のもっと深いところが描かれます。
美津未はクラスマッチで結月やミカと同じバレーを選択しますが、実は運動がかなり苦手でした。そこでバレー経験者であるミカに指導を仰ぐことになります。ミカは志摩も手伝いに来ると聞いて、美津未の練習に付き合うことにします。ミカは志摩がいる時と美津未と2人きりの時で二重人格のように態度が変わるのですが、美津未が特に気にしていないところがおもしろいです。
ミカは美津未がお礼にと持ってきたお菓子を受け取らず、ミカが太りやすい体質で節制していることが読者に明らかになります。そして志摩と美津未が親しげに会話しているところを見て、
ラッキーだったね 岩倉さんは
そのまんまで受け入れてもらえて
私みたいに食べたいもの我慢して
キラキラした部活に入って キラキラしたグループに入って
そんな努力しなくてよかったんだもんね
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p70
と考えます。ここからミカの内面が掘り下げられていきます。
後日、志摩が用事で来られず2人で体育館に向かうと、本来1年生だけが使える曜日にも関わらず、3年生たちがボール遊びをしていました。2人は端っこで練習をしていたが、ボール遊びに夢中の3年生がミカにぶつかってしまいます。謝りもしない3年生に美津未が「今日は1年生が使う日ですが!」と赤面し勇気を出して注意するが、
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p73
微塵も気に留めない様子で無視されてしまいます。
ミカは小学生の頃、地味で太っていて誰にも相手にされなかった状況を、
ひさしぶりだ このかんじ
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p73
と思い出します。
そこに別の3年生が3年生2人を注意して追い出してくれます。ミカは胸を押さえて「大丈夫」と深呼吸し、自分らを軽視した3年生の名前を心の許さじノート(ミカのことを理不尽に扱った人間の名前がすべて刻まれている魂のノート)に刻み込みます。そして美津未に対して、
正面から注意するだけが正しいんじゃないの
怖かったら関わらない!
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p75
と怒るのですが、美津未は、
でもあの福田さんって先輩はかっこよかったよね
バシッと注意してくれて
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p75
と言う。「知ってる人だったの?」と訊くミカに、
ううん
靴に名前があったから
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p76
と答える美津未。ミカはそれに心を動かされ、
きっとこういうところだ
私がムカつく奴の名前をふたつ覚えてる間に
岩倉さんは親切にしてくれた人の名前をひとつ覚えるんだろう
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p76,77
と顔を俯かせます。
とびきりの美人でもなければ
純粋でまっすぐにもなれない
私を一体 誰が選ぶ?
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p78,79
ミカは美津未に「どうして私にしたの」と訊きます。仲のよい結月も元バレー部なのにどうして。嫌な奴だから迷惑かけやすかった? と。美津未はミカが自分に対して当たりが強いことに気づいていました。しかし嘘は言っていないことにも気づいていました。教わるなら仲のいい結月よりも、忌憚ない意見を言ってくれそうなミカに頼みたかったと言います。
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p83
このミカの顔、何回見ても泣いてしまうんですが…。どうですか?
吹っ切れたミカは美津未たちの前で素を出せるようになります。そこをぶりっ子姿しか見せていなかった志摩に見られ、一瞬動揺するものの、「江頭さん がんばれ」という志摩の言葉に勇気をもらい、美津未たちの元に駆けていきます。
深まる絆
その後のクラスマッチ本番では美津未と志摩の絆が深まる様子が描かれます。2人の会話シーンは0ですが、美津未の心理描写と志摩の表情で丁寧に表現されているのがすごい。
この回では美津未が手作りの浅漬けを志摩たちにあげにいこうとするのですが、志摩を見にきた女子たちに圧倒され、情けなく赤面しすごすごと帰っていきます。志摩はそんな美津未の背中を寂しげに見ています。「あれじゃ渡せないよね」と友人らと会話をしていると、話に割り込んできた兼近先輩が、
さみしいだろうなぁ 志摩くん
(略)
彼自身は変わらないのに 遠慮されることも多いのかな と
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p104
と呟きます。美津未は入学初日に「吐いた人」などと言われてるのを気にしないで声をかけてくれた志摩のことを考えます。そして浅漬けを持って走って試合中の志摩の元へ向かい、脇目も振らず志摩たちを応援します。そんな美津未を見た志摩は、シュートを決め試合に勝利します。青春ですね。
拒絶してくる相手に自分の本心をぶつける
次の話は、前期期末試験の2週間前から始まります。
美津未は試験前に休んだり遅刻したりする志摩を心配するのですが、中学から仲のいい迎井から「人の迷惑にならないようなことは何も言わずサボりがち」という話を聞きます。また噂好きの女子から「夜な夜な遊んでた」とか「読モと付き合って、多くの女子から告白されるのをちぎっては投げしてた」という話も聞いて、さらに不安になります。
そんな中「低気圧で頭痛くて」と昼から登校してきた志摩に挨拶をされるが、うまく返事ができず無視してしまいます。
2人きりになった時、学校をサボることに関して「よくない? べつに」と言う志摩に美津未は、
じ 自分のことテキトーはよくないし
夜遊びしてるとか言われるのだって嫌じゃん!
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p136
と語気を強めます。「1年生でも期末テストは大事だし…」と続ける美津未だったが、
それは みつみちゃんにとっては でしょ
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p138
と遮られてしまう。これは、入学式に遅刻して落ち込む美津未を慰めようとした志摩に対して、美津未が言ったセリフでした。ハッとする志摩に対し美津未は気にしていないふうを装い、教室を駆け足で出ていきます。
翌日、学校の玄関でばったり会う2人でしたが、美津未は気まずさのあまりうまく話せず、志摩もよそよそしい。
美津未は普段通りの生活をしながら、どうして自分があのような発言をしたのかを考えました。そして帰り際、友だちと帰ろうとする志摩を呼び止め、人気の少ない場所に連れて行きます。志摩は気まずさに耐えかねて「昨日のことだよね」「オレの言い方がキツく聞こえたならごめん」「家の用事があるから」と帰ろうとします。笑顔だが相手をシャットアウトするような態度に、普通の人だったら何も言えなくなるかもしれません。しかし美津未は動じず「わかった」「じゃあ一個だけ」と答え、こう伝えます。
テスト期間なのにーーとか しつこく責めてごめんね
もっともらしいこと言ったけど ホントは
志摩くんが来ないとつまんないから来てよって 言いたかっただけなんだ……
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p161
この言葉は、正直さは、志摩の心をも動かします。
オレが嫌だったのは みつみちゃんがしつこかったからとかじゃなくて
オレが夜遊びしてるとかって話を ちょっとでも真に受けたりしたのかなって
(略)
みつみちゃんはさぁ そういうの 信じないでよ
ていうか 聞かないで?
高松美咲『スキップとローファー』2巻 p165
本音を伝えるのが苦手であろう志摩から、このセリフを引き出しました。
「あなたが来ないとつまんないから来てよって言いたかっただけなんだ…」ってすごいセリフです。純朴な美津未でさえ無意識に抑え込んで「期末テストや夜遊びがどうのこうの」というセリフに変わってしまうくらいの、あまりに真っ直ぐすぎる気持ちです。そしてそれを、拒絶してこようとする相手にぶつけるすさまじさ。この漫画の良さがこのセリフには詰まっていると思います。
3巻のあらすじと感想はこちら↓
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